『DARK CORPSE』







――戦車が意気揚々と進む中心部の通りは、歓声と熱気に包まれていた。
けれど、町の裏通り。小さく古びた教会は、嘆きと痛みに包まれていた。
どうしてこんなことに。なんであんなことが。
誰かの怨嗟が聞こえる。あるいは己のものかもしれない。どうでもいい。
全ては一瞬だった。一瞬だけ――けれど永遠に訪れる悪夢だった。
突然の攻撃。突然の爆発。突然の死。
その光景は北風のように疾く過ぎ去り、理解は汚泥のようにじんわりと思考に滲んでいった。
果てに訪れたのは死と理不尽に対する嘆きと、苦しみと、恨み。
何を考えての攻撃なのかはどうでもいい。理由もいらない。
ただ無造作に。一方的に。まるで小石を蹴飛ばすが如く。
私の、彼等の、大切なものは消え去っていった。
…教会の中はさながら、悪夢めいている。
椅子に座るは夫の死を嘆く妻。床に倒れ臥すは先程力尽きた異国人。
出入口で哄笑を上げているのは20に満たない私の息子。
祭壇の上で、誰も聞かぬ祈りの言葉を紡ぐは、この私。
……祈りの言葉をかき消すような歓声と、戦車の音。
全ての声が止まる。全ての瞳に殺意の焔が宿る。
――にくい。ニクイ。憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い――!
誰にともなく飛び出し、歓喜と人に包まれた通りに出る。
達成感と幸福に包まれた顔の軍服姿。
――思わず、あらゆる恨みと憎しみを、言葉にした。

――軍服がこちらを見る。

――ニコリと、哂った。

――歓声は空にまで響き、いずれ神に届くだろう。
――私達の声など、なかったかのように。

――ならばこの恨みは地の底まで染み渡らせ、悪魔に聞かせるまで。

振り返る。
やはり、彼らも、笑って、いた。








「戦車」

大アルカナの八。
逆位置では失敗,暴走,障害,悪戦苦闘,精神的疲労を暗示。