「人みな我が飢を知りて人の飢を知らず」
――沢庵宗彭――
少女は、美しい女性と別れ、再び果てのない草原を歩いて行った。
歩きながら、頭の中で先程の女性の言葉を反芻する。
「『解けなければ、あなたは終わり』…どういう意味でしょう――」
「意味も何も…文字通りの意味よ」
また、背後から突然声をかけられた。
急ぎ振り向くと、そこには商人風のいでたちをした一人の少女。
「解けるまでは、あなたは先に進めない。
解けなければ、あなたは停止する――言い換えれば、死ぬってことね」
「あなたは――?」
驚きに目を見開きながら、少女は尋ねた。
しかし、商人はチッチッ、と指を振りながら、
「駄目よ。質問一つにつき解答一つ。これが原則でしょ?」
「あ――はい。すみませんでした」
「ん。わかればよろしい」
言いながら、商人は大きな麻袋の中から、九つの小さな袋を取り出した。
ジャラジャラと音がするところをみると、どうやら硬貨が入っているようだ。
商人は更に、麻袋の中から神秘的な形状の天秤を取り出した。
そうして、少女に【質問】する。
「この袋の中には、それぞれに金貨が100枚詰まってるんだけどね。
どうやらこの袋のうち、どれか一つが偽物とすり替えられたみたいなのよ。
でね、その偽物の金貨袋がどれかを教えて欲しいのよ」
「はあ…しかし、困りましたね。見た目はどれも同じですし…」
「そうね。見た目だけじゃあプロでも判別はできないわ。
けれどね、偽物の金貨は他の金貨と比べて軽いのよ。
詳しく言うと、普通の金貨は1gなんだけど、偽物は0.9gなの。
それに、偽物の袋には偽物の金貨しか入ってないし、本物の袋には本物の金 貨しか入ってないわ」
「では、金貨の袋をその天秤に全部乗せて、少しずつ調べれば…」
「……それがね、この天秤。ガタガタでしょ?
やっぱり値切り品だったからかな。性能はいいんだけどね。
物を乗せたら、それの正確な重さを教えてくれるのよ。
……でも、1回しか使えないんじゃ意味はないけどね。
つまり、天秤を1回だけ使って偽物の袋を判別する方法を教えてほしいの。
もちろん、乗せないで解るのならそれにこしたことはないけどね。
できる……かどうかは問題じゃないか。お願いするわね」
――そろそろ答えは解ったか?
――解答はこの下にあるから気をつけろよ。
―――それじゃあいこうか―――
――解答――
幸い、偽物の袋には偽物だけ。本物の袋には本物だけが詰まっている。
これなら方法次第じゃ、一回だけで十分だな。
やり方はいたって簡単。
まず、コインの袋に番号を振ってくれ。1,2,3……ってな。
続いて、袋に書かれた数(番号だな)だけ、袋の中からコインを取り出す。
例えば「1」って書いた袋からはコインを1枚。「7」って書いた袋からはコインを7枚ってかんじにな。
そして、そのコイン…45枚か。それらを全て天秤に乗せる。
本当なら計測結果45gになるはずだけど、恐らくはいくらか軽いはずだ。
例えば「44.5」とか「44.3」とかな。
…先に結論を言えば、45から計測結果を引いて、それに10をかけた番号の袋が、間違いなく偽物の袋だ。
解らないなら、説明しようか。
番号に書かれたのと同じ数だけ、袋から金貨を取り出したら、偽物の袋に書かれた番号の数だけ偽物の金貨が取り出されるってことになるよな?
つまり、偽物の袋の番号=取り出された偽物の金貨の枚数。ってことだ。
偽物の金貨は本物と比べると0.01g軽い。
すると、どうしても「0.01×偽物の金貨の枚数」だけ軽くなってしまう。
つまり、計測結果は「45−0.01×偽物の金貨の枚数」になるんだ。
上に書いた結論は、この式から編み出した「解答」を導き出すための方程式ってことだ。
ちょっとややこしかったが、解ったか?
…何分説明ベタなもんでな。自信がないんだよな。大丈夫だったか…?