「所詮は恋愛など、自己中心的な快楽に過ぎない。生殖行為と同じだ。
 だが、それ故に人は恋を美化する」
――『紅月の夜』――







女性は、あてもなく城の中を彷徨っていた。
どこにも窓がないので、今自分がいるのが難解なのかも分からないから、上に進めばいいのか下に進めばいいのかもわからない。

「…なんでまた、窓が一つもないんだ?」

当然、これは返答も何も期待していない独り言であった。
だが、返答は背後から返って来た。

「必要ないからですよ」

「――」

咄嗟に振り向き、身構える。
――今、気配が突然「出現」した――

「何者だ?」

短めのスカートとベスト、白いシャツを纏う少女がそこにいた。
服は着慣れている様子ではあるがどこか不自然で、それが何かの制服だということが窺い知れた。
頭髪は黒・瞳は茶色。手には、奇妙な……何かを持っている。

「その前に、私の質問に答えてください」

「…いいだろう。何だ?」

女性が頷くと、黒髪の少女は、何故か苦笑を浮かべながら【質問】を始めた。

「これを見てください」

そう言って、黒髪の少女は奇妙な「何か」を突き出した。
それが何なのかは女性には理解できなかったが、上部に四角い仕切りがあり、その中に小さな文字が書かれている。

「このケータイ、友達から貰った物なんですけど、私には使い方がちょっと解 らなかったもので、データの一部を破損してしまったんですよ。
 そのデータの中に友達の連絡先とかが書いてあって…。
 それを教えてほしいんです」

「聞けばいいだろう?その友人とやらに」

黒髪の少女が何を言っているのか、女性にはさっぱりだったが、それでも理解できる部分だけを何とか抜き出し、そう結論付けた。
だが、黒髪の少女は首を横に振り、

「ええ。ある理由があって、直接会って聞くことはできないからメールで尋ね たんですが…」

そう言って、何やら下部についているボタンらしきものを操作し始めた。
そしてすぐに、再び画面を突きつける。
そこに書かれていたのは、こんな



・恭子  085−#p?−@0!!
・由香  @1!−%%#−@!p0
・美月  085−p#@−%1?p
・実家  00−1885−5108



「ほら、数字の部分が文字化けしちゃってるでしょう?
 どれが何番なのかさっぱり分からないんですよ」

「文字化けの意味は分からないが…、一部、数字があるようだぞ?」

「ああ、これはさっき私が訂正したものなんです。
 ほら、恭子…友達の実家の番号なんですが、それは思い出せますから」

「どういう意味だ?さっぱり解らん」

「えぇと…他はどうか知りませんが、この文字化けにはある法則があるんです よ。例えば、◎=0 ♪=5…みたいな」

「…なるほど。つまり数字が記号に置き換えられていると言うことか」

「ええ、そういうことです」

「…しかし、これだけではどうにもならないぞ。
 他に何か思い出せることはないのか?」

「…いくつかありますね。
 まず、由香の最初の数字は1,2,3でした。順番は解りませんけど。
 恭子の番号に「6」はありませんでした。
 それと、実家を除いた全ての電話番号に「7」があります
 それに、同じ番号が2回続いている所がありますよね?
 そこは実家のを除けば全て3より大きい数でした。
 あと、由香の…この、「%%#」の部分と美月の「p#@」の部分ですけど
 その部分にある数字の合計は、由香より美月の方が小さかったですね。
 由香の続く番号が、一つだけだったら同じになった…と、思います。
 …それぐらいでしょうか」

「…そこまで覚えていて、どうして番号を思い出せないんだ」

「そんなこと、私に言われても…。
 それより、この問題、解けますか?」







――あ、もういいの?
――まだなら、もうちょっと考えてね。解答はこの下だよ。























―――それじゃあ、答えあわせ、行ってみよう!―――
















――解答――

まあったく、ミドの機械音痴にも困ったもんだよね。
そういう時はケータイじゃなくって私の家に電話すれば良かったのに…。
ま、もしかしたらミド、私の家の番号も忘れてるかもしれないけど。
それはさておき、解答、ちゃっちゃと始めちゃおっか。
でも、私、数学は得意だけど説明下手かもしんないから、もし解らなかったらごめんね。

…え〜と、まず、条件をまとめてみよっか。
0,1,5,8は判明しているから、残り6つの数字。
つまり2,3,4.6,7,9がどの記号に当てはまるかを考えるんだよ。
一応、文字化けしたメールの確認。

・恭子  085−#p?−@0!!
・由香  @1!−%%#−@!p0
・美月  085−p#@−%1?p

そして、ミドが思い出した数字の「ヒント」
・由香の最初の数字は1,2,3。ただし順番は不明。
・恭子の番号の中に「6」はない。
・全ての番号に「7」がある。
・続く番号は3より大きい数
・「%×2+#」>「p+#+@」
・「%+#」=「p+#+@」

まず、由香の最初の数字が1,2,3ってのが気にかかるね。
1はもう判明しているから、残り二つ――2と3をここで解明できると思う。
@と!は2か3ということになるんだけど…これだけじゃ判別は不能。
ここでミドのもう一つのヒントの出番だね。「続く番号は3より大きい数」
@か!のどちらかが「3」なんだから、もし@か!のどちらかが続いていたらその続いている方が3だと解る。そして、もう片方が2だともね。
探してみると……お、都合よくあったね。恭子のところに「!!」が。
つまり「@=2」「!=3」ってことになる。
とりあえず、判明した記号を番号に置き換えてみようか。

・恭子  085−#p?−2033
・由香  213−%%#−23p0
・美月  085−p#2−%1?p

これで残ったのは4.6,7,9。
%が続いているけど、残っているのは全部「3より大きい数」だから、判別は難しいね。
そこで、ヒント(「%×2+#」>「p+#+@」)の出番だよ。
これを使って、解いちゃおう!
まず、全て加算する以上、同じ数である「#」は除外する。
ややこしくなるだけだからね。
除外すると、「%×2」>「p+2」
ってことになるね。この組み合わせが可能なのは…
%=4,6,7,9
p=4,6,7
と、ほぼ全部。
けれど、これにもう一つの条件(「%+#」=「p+#+@」)を加えればかなり絞れるはず。
さっきも言ったとおり、#は除外して構わないから
「%」=「p+2」という式が成り立つ。
これに当てはまるのは…
「%=9,p=7」の場合と「%=8,p=6」の場合。
そこで更なるヒント「恭子の所に6はない」という追加条件を持ち出す。
仮に「%=9,p=7」が正しかったとすると、残る番号はこうなる。

・恭子  085−#7?−2033
・由香  213−99#−23p0
・美月  085−7#2−91?7

残る番号は4と6で、それに対応するのは「#」と「?」
けれど、そうなると恭子のところには「#」も「?」もある。
どちらか片方が間違いなく「6」なんだから、それでは答えが矛盾する。
したがって、「%=9,p=7」は間違いで、答えは「%=8,p=6」
そして正確な番号も

・恭子  085−#6?−2033
・由香  213−88#−23p0
・美月  085−6#2−81?6

さて、これで残ったのは「7」と「9」。またの名を「#」と「?」
これだけしか残ってないなら、ヤマカンで番号を押せば繋がると思うけど…。
完璧主義のミドのことだ、それじゃあ満足しないだろうね。
よし、それでは最後のヒントを使おうか。
「「7」は全ての番号に存在する」
「p=6」が確定した今、条件に合致しているのは「#」だけだよね。
つまり、「#」は「7」。そして残った「?」は「9」ということになるね。
これで全部の数字が判明したね。表に直すとこうなるよ。

@=2
!=3
p=4
%=6
#=7
?=9

そして、そこから導き出される番号。すなわち解答はこう。

・恭子  085−769−2033
・由香  214−667−2360
・美月  085−472−6194

一見すると数学にある程度精通していなきゃ解けないようにも見えるけど、足し算さえできれば解ける問題なんだよね、これ。
どう?本編ではちょっと頭弱そうに見えたかもしれないけど、見直した?
それじゃ、私はこれからデートがあるので、失礼しま〜す。