「…不安定な数字 …模範的な数式
 問題となるのは個の性質ではなく 唯…記号としての数量
 世界が安定を求める以上 早くどれか一つを引かなければ…」
――Sound Horizon「Yield」――







自由の身となった二人は、階段を急いで上った。
…あの男の言った「変態」とやらが何処にいるのかは知らないが、中々手間取りそうなことではある――。

「「……」」

――そう思っていた。が、思った以上に簡単に見つけられた。
何しろ、彼等は神殿の2階中に響く大声で言い争っていたのだから。
……何を言っているのか、理解不明ではあるけれど。

「……」

2階の噴水の近くで、5人の――奇人が何かを騒いでいる。
何を言っているかは、相変わらず理解できない。
だが、果てしなくややこしい状況下であることは、見て取れた。

「…で、何やってんだ?」

「ん……おお、エキストラか!?」

赤いのが言った。

「いや、結構な美形だから、特別ゲストかなんかだろ」

青いのがそれに返す。

「!もしや、新キャラ!!?」

桃色が言った。

「まずい…!これ以上やると、俺たちの出番が!」

「何とかしないと…」

黄色と緑が続く。
…このままでは大変なことになると、二人は説明をした。

「…いえ、私達は、あなた方に尋ねたいことがあって来たのですが…」

「何だ。それならそうと早く言ってくれよ。
 あ、でも、正体は秘密な。それと基地の在り処も」

赤いのが何か勘違いをしていた。
……誰が、そんな全身タイツに包んだ奴の正体を知りたがるのだろうか。

「いえ、それはいいです。
 私達が聞きたいのは、この世界から抜け出す方法です。ご存知ですか?」

「ん〜…俺達は知らないなあ。階段の上に祭壇があるだろ?
 あそこにいる奴なら知っているかもしれねえけど」

青いのがそう言った。
…どうやら、大きく戻ることになるらしい。

「……じゃあ、質問を」

「ええ、それじゃあ一つ尋ねちゃおうかな」

「ややこしいけれど、お願いね」

桃色と緑色が言う。
そして、彼等の「ややこしい【質問】」が始まった。

「まず、これを見てくれ!」

赤いのが指差した先には……変な毛玉があった。

「……毛玉?」

「毛玉じゃないわよ!基地のアイドルポコポコよ!!」

良く見ると、毛玉には目も口もあった。

「で、そいつがどうかしたのか」

「見て解らない!?誰かに後頭部を一撃されて気絶しちゃったのよ!
 …可愛そうに、こんなに怖がっちゃって」

良く見ると、毛玉は震えているようだった。

「しかも、殴られたショックで記憶をなくしちゃったんだ。
 だから殴られたのが誰かはわからない」

「けど、この中の誰かなのは確かだ。あの時は他に誰もいなかったからな」

「凶器はこのハンマーだ。倒れたポコポコの近くに落ちていた。
 工具箱の中から盗まれたみたいだな」

立て続けに説明をするメンバー。
その顔は、どれもこれも殺気立っていて、いかにその犯人を憎んでいるかが良く解った。マスクなので表情が解らないから、雰囲気で察するしかないが。

「…じゃ、じゃあ、犯行の状況を詳しく説明してくれ」

「ああ、犯行はつい数時間前に起こった。
 見つけたのはピンクで、彼女の叫び声を聞いて、まず最初に現れたのは、俺 (レッド)だった。次にブルー,ピンク,イエローの順だ。
 集まったのは1分とかからなかった。正義の味方だからな!早いんだ!!」

「ポコポコが倒れていたのは各々の部屋から出たすぐの場所にある会議室よ。
 皆は私が見つけた時、部屋にこもっていたみたい。
 犯行のときは私もこもってたから、変な音とかは聞いてないわ。
 プライバシー保護のために、防音しているのよ。自然に優しい素材で」

「なるほど。って事は他の全員も聞いていない、か」

やはり、他の全員も首を振っていた。

「工具箱も会議室にある。最後にポコポコを見たのは食事の時だ。
 ちなみに、食事の時だけはマスクを外すんだぜ」

「…では、目撃証言もなしですね」

剣士がポツリとそう言うと、全員が首を横に振った。

「見たのか!?」

「ええ、レッドとブルーとグリーンが」

「その時のこと、ちょっと喋ってくれ」

「ああ。じゃ、先ずは俺から」

レッドが最初に、目撃証言を言った。

「俺がトイレに行こうとすると、グリーンの姿が見えたんだ。
 恐ろしい笑顔を浮かべていてな。ハンマーを持っていた。
 あんまりにも怖かったから部屋に引っ込んだんだよ」

続いてブルーが言った。

「俺が見たのはイエローの姿だったよ。
 何故だか嫌な予感がして、こっそりと会議室を見ていたら、見たんだ。
 後姿だったが、ただならぬ雰囲気で工具箱をあさっていた。
 変だなとは思ったが、仲間の姿だったんで安心して引っ込んだ」

最後にグリーン
「私は、姿は見ていないけど声は聞いたわ。
 私がトイレに行った帰りに、部屋に入ろうとすると、レッドの声がしたの。
 『チャ〜ンス』って、怖い声でね。
 どうせいつものギャンブルだと思って放っておいたんだけど…」

「…証言が、バラバラですね」

「そうだな。見間違いってこともあるだろうが…」

すると3人は慌てて首を横に振った。

「いや、基地は地下だが会議室も部屋も明るいから、見間違えようがない!」

「声も間違いなかったわ!……でも」

「そんなもん、基地にあるマシンを使えばいくらでも変えられるんだよな。
 予備のスーツがあるから、姿も自由に変えられる」

「ややこしいですね…イエローさんとピンクさんは、何か気づいたことは」

「俺は何にも。寝ていた時に突然、叫び声が上がったんで飛び起きたんだ」

「私は、最初の発見者だったけど…。何処にも変な様子はなかったわ」

「…なあ、あんたら。犯人は一体誰だか分かるか?」

「ふぅむ……」
「う〜ん……」


難しい顔をして考え込む二人。
犯人の致命的なミスに気付くのは、当分先になりそうである。







――ワハハハハハハハハハハ!久しぶりだな!!我輩が解答をしよう!!
――さあて、準備は良いな!!ウハハハハハハハハ!!
























―――あ、ええと……解答はこの下だ!ハハハハハ!!―――
















――解答――

…それにしても、ヒーロー世界も色々と大変なんですねえ。
犯人は捕まりましたが、全員に袋叩きにされたうえに、ボコボコにボコボコにされてしまったそうですよ。
…まあ、犯人はそのままヒーローを続けてましたが。
……ふう…………は!?
(こ、これではただの中年ではないか!威厳だ!威厳っ!!)

……ふ、ふははははははははははは!!!
では、ワシ自らが解答を教えてやろう!あり難く思うが良い!
まず最初に言っておくが、目撃証言の姿と声は、奴等の言うとおり当てにはならん!!
……が、注目すべきはレッドとブルーの発言だ。
二人の意見は、見事に分かれておる!これは一体どういうことか?
そこで注目するのは、奴等の発言だ!!
レッドは「恐ろしい笑顔を浮かべていた」と言っていたな?
覚えていないとは言わせんぞ!!
だが、良く思い出してみろ!奴等はマスクを被っていたのだぞ!?
しかもブルーの発言「食事の時だけはマスクを外す」
ということから、マスクは口元が隠れるタイプだと判断できる!
まず外さないだろうということもな!!
そうであるならば、レッドが「笑顔を浮かべている」のを見る事が出来るというのは明らかにおかしい!
加えて、全員が全員「明るかったから見間違いはない!」とも言っている。
よって、犯人は「レッド」だ!

…ふう。怒鳴りつかれたわい。
それでは、ワシは戻ろうか。
ではさらばだ、また会おう!!
ふはははははははははははははははははははははは……!